A 『まるごと』の内容・構成

全てを表示

Q1.第1課から順番に教えなければいけませんか。
A.『まるごと』は言語項目の積み上げ(前の授業で教えた項目は学習済みであること)を前提にしていないため、1課から順番に進めなくても教えることができます。また、学習目的に合ったトピックだけを選んで使うこともできます(例えば日本旅行に行く前に「旅行」に関係するトピックを選んで会話を練習するなど)。
中級レベルでは学習者のニーズが多様化してくることを考慮し、中級1・中級2(B1)では各パートを技能別に分け、それぞれを独立して学習することができるようになっています。
Q2.入門(A1)、初級1・2(A2)の「かつどう」と「りかい」は両方使う必要がありますか。
A.

「かつどう」「りかい」はいずれも主教材なので、学習者のニーズや学習歴などによって、「かつどう」だけ、もしくは「りかい」だけを使ったコースにすることが可能です。

一方、初めて日本語を学ぶ学習者が、ある程度長期的に学習しようとしている場合、総合的な日本語力を養うために、「かつどう」「りかい」の両方を使うことをお勧めしています。

なお、その場合には「かつどう」「りかい」の順番でお使いください。

Q3.「かつどう」と「りかい」の目標は異なりますか。
A.「かつどう」は、Can-doが達成できる(話せる、その他の技能の活動ができる)ことが目標です。「りかい」は基本文型を理解し、文型を使って正しい文が作れること、作文で文型を使えること、文型が含まれている文章が理解できることが目標です。ただし、「りかい」の学習項目はすべて「かつどう」の目標Can-doの達成につながっています。
Q4.「かつどう」と「りかい」を両方使うときは、どのように使えばよいですか。
A.

最初に「かつどう」(帰納的学習=言語使用例からの気づき、推測、確認)、次に「りかい」(演繹的学習=ルールの明示的学習→適用練習)という順番でお使いください。

また、その際は、課ごと、またはトピックごとに教えると使いやすいです(例:かつどう第1課→りかい第1課→かつどう第2課→りかい第2課)。

なお、「りかい」を「かつどう」より先に使わない理由は、「りかい」で先にルールを学ぶと、後で「かつどう」を使うときにはもうルールを知っているため、帰納的学習ができないからです。

Q5.「かつどう」を使わずに「りかい」だけを使うのはどんなときでしょうか。
A.「りかい」だけで進める授業は、日本での滞在経験等からある程度話せるけれども体系的な日本語学習の経験(日本語のコースに参加するなど)がない、あるいは、学習経験が少ない方に向いています。『まるごと』以外の教材でも会話の授業が別途用意されている場合にもお使いいただけます。
Q6.「りかい」は独習で使えますか。
A.ひとりで問題を考えたり、「聞いてチェックしましょう」で答えを確認したりすることもできるので、独習でも使用は可能です。
ただし、「りかい」では、学習者同士で確認したり、ことばを分析する過程が大切であり、独習の場合は「りかい」の意図や良さを十分生かすのは難しいかもしれません。
Q7.「初中級」はどのように構成されていますか。
A.

入門(A1)・初級(A2)では、言語活動(かつどう)と言語能力(りかい)という分け方で効率的・効果的な授業と学習を目指しました。
一方、初中級(A2/B1)は初級A2のまとめと、さらに中級B1への橋渡しをするという2つの目的があります。そのため言語活動と言語能力に分けず、A2レベルとB1レベルの間のつながりを持たせることを重視して活動を配置しました(各トピックの前半にA2、後半にB1)。

Can-doについては、A2レベルとB1レベルのCan-doからなり、やりとり・話すCan-doに加え、読みのCan-doがもう一つの柱になっています。

言語項目では、入門(A1)・初級(A2)で学んだ文型・文法の応用的なもの、B1レベルのCan-doに必要で新規導入するものを選定しました。

Q8.「中級」はどのように構成されていますか。
A.

中級(B1)は、「自立した言語使用者」を想定した構成です。

日本語によるさまざまな活動に挑戦するために、Can-do目標を5つの言語活動(聞いてわかる、会話する、長く話す、読んでわかる、書く)に広げています。Can-do(かつどう)とことば(りかい)という分け方ではなく、言語活動ごとに独立性の高いパート構成になっています。

行動がより多様化する中級レベルにおいて、言語活動別のCan-doを設定することで、自分(学習者)に必要なものをピックアップして学習する、という進め方も可能です。

B 『まるごと』で教えるコース・学習者

全てを表示

Q20.『まるごと』が日本国内でもおすすめな理由は何ですか。(1)
A.
  • 『まるごと』はコースブックとして設計してあります。想定する授業時間に合った内容に絞り込み、手順を練ってあります。先生は本の順番どおりに教えればよく、従来型の文型シラバス教科書で教える場合と比べて、授業準備の負担が(人によっては格段に)軽減されます。
  • 『まるごと』入門(A1)は、ローマ字とかなが併記されています(後半の読むテキストを除く)。文字を最初にまとめて覚える時間がない学習者や、文字学習に不安を感じている学習者にも安心して使えます。
  • ウェブ教材「まるごと+(まるごとプラス)」があり、自習もできます。
  • 『まるごと』は入門(A1)から中級(B1)までシリーズで刊行されており、来日前に『まるごと』で学んでいた学習者が、来日後も継続学習する場合、スムーズに対応できます。
Q21.『まるごと』が日本国内でもおすすめな理由は何ですか。(2)

A.『まるごと』は海外の学習者に向けて開発しましたが、交流の会話が多いので、「海外でしか使えない」のではなく、国内でもそのまま使えます。

学習者が自分のこと(国、町、文化)を発信する会話が多くあります。国内でも日本語を使って自己表現をするチャンスをもちたい学習者のニーズに合っています。

日本語を使っての交流場面が会話内容に多いので、日本で生活しながら知り合い・友人を作りたい学習者のニーズに合っています。

『まるごと』は入門(A1)から中級(B1)までシリーズで刊行されており、来日前に『まるごと』で学んでいた学習者が、来日後も継続学習する場合、スムーズに対応できます。

なお、日本で生活している人に必要な場面の実用会話(ごみの分別、防災訓練への参加など)は『いろどり』にあります。

『まるごと』は海外の学習者に向けて開発しましたが、交流の会話や、学習者が自分のこと(国、町、文化)を発信する会話が多くあるので、国内で日本語を使って自己表現をしたり、日本で生活しながら知り合い・友人を作りたいという学習者のニーズに合っています。したがって、「海外でしか使えない」のではなく、国内でもそのまま使えます。

Q22.個人レッスンや、少人数のグループレッスンでも使えますか。
A.音声や語彙リストなどの周辺教材も揃っていますので、個人レッスンや、少人数のグループレッスンでもお使いいただけますが、グループ活動を前提として作成しているため、学習者が複数いる方が効果的です。
Q23.中学生や高校生のクラスで使うことはできますか。
A.『まるごと』は海外の成人学習者を主な対象としていますが、後期中等教育(高等学校)でも使用する機関が出てきています。高校生でも楽しく学べるトピックもある一方、飲酒の場面などもありますので、各トピックの内容が未成年の学習者にとって適当かどうか、授業を担当される先生方でご判断ください。一方、小学生、中学生については、内容だけでなく学習方法において必ずしも適切とは言えない点があるかもしれません。この点を授業を担当される先生方で吟味していただきたいと思います。
Q24.学習者の個人目標とコースの目標が合いません。

A.学習者の個人目標とコースの目標とのすり合わせのためには、事前の話し合いと合意が必要です。

また、学習者のニーズやレディネスに関する調査を行い、コースデザインを見直す必要がある場合もあります。学習者のニーズに合った日本語教育を実現させてください。

C 授業(時間配分、媒介語、宿題、多国籍クラス、教材のかきかえ等)

全てを表示

Q30.文脈や場面を変えた方が学習者にとって分かりやすそうな場合でも、テキストの場面や文脈は変えない方がいいのですか。
A.場面や文脈は、目標Can-doの一部なので、提示されている場面や文脈は変えないでください。「一貫した文脈」で聞いて理解する、そして使ってみることが大事です。文法や文型の理解のために場面や文脈を変えるべきではありません。
Q31.テキストの各パートには、それぞれどれくらいの時間をかけるのでしょうか。
A.「まるごとサイト」の教師用リソースにある「教え方のポイント」に授業構成の目安があります。参考にしてください。
(例)入門(A1)「かつどう」 トピック3
たべもの だい5か なにが すきですか (90-120分)の目安
  • トピックのイメージ作り/Can-doの確認:5分
  • 1.肉が好きですか。:30-40分
  • 2.コーヒー、のみますか。:30~40分
  • 3.いつも朝ごはんをたべますか。:20分
  • Can-doチェック:5-10分
Q32.「かつどう」の「生活と文化」、「りかい」の「ことばと文化」にかける時間は「教え方のポイント」の目安どおりでなくてはいけませんか。

A.教師用リソースの「教え方のポイント」では、「かつどう」の「生活と文化」は15分~20分程度、「りかい」の「ことばと文化」は5分程度を目安として提案しています。しかし国や母語、学習者によって興味関心は様々であり、取り上げやすさも違います。そのため、すべての内容を同じ時間で扱う必要はありません。内容によって、短い時間で行う、または長く時間をとって、ゆっくり考えてもらうこともあり得ます。

なお、「りかい」の「ことばと文化」はそのトピックで扱う表現に関する内容なので、そのトピックを学習するときに取り上げるのが最善ですが、「かつどう」の「生活と文化」はまとめて扱っても構いません。

Q33.媒介語は使ってもよいですか。
A.母語を含む媒介語は成人学習者が学習をすすめる上で有効な道具です。『まるごと』の授業では、媒介語が使える状況であれば、必要に応じて効果的に使用してください。
Q34.学習者が同国人のクラスは、どのように教えたらよいでしょうか。
A.学習者が同国人だけのクラスでは、学習者が持つ情報が似通っていて会話が退屈になるのではないかと、心配になりますね。しかし教師は、学習者がその人らしく日本語を話せるように、方法を工夫することが大切です。例えば、「今の季節について話す」という会話であれば、自分が日本に行く予定や行きたい時期に合わせて答える、または「ききましょう」のどれかをモデルにするなど、Can-doの範囲の中で、学習者が主体的に設定を考えるようにすることもできます。
Q35.どんな宿題を出せばよいですか。

A.『まるごと』は一般成人を対象としています。授業時間以外に学習を行うことは一般的に難しいので、『まるごと』は授業時間で学習を完結させることを前提として作成しました。そのため、宿題は想定しておりません。

しかしながら、先生のご判断で宿題が必要と思われる場合には、「まるごと+(まるごとプラス)」や「まるごとのことば」、「みんなの教材サイト」の「JFS教材」、または『いろどり』等を、宿題の目的・目標に合わせてお選びください。

※「JFS教材」をご覧いただくには、「みんなの教材サイト」へのユーザー登録及びログインが必要です。

D 指導法(聞くこと、話すこと、文法、文字、文化等)

全てを表示

Q40.なぜ「聞くこと(インプット)が先」なのですか。
A.私たちがことばを話すようになるためには、まず音声による大量のインプットが必要である、という第2言語習得理論に基づくものです。
Q41.最初に音声を聴くだけで、その内容が分かるのでしょうか。

A.音声インプットを理解するためには、予測や推測などの聞くストラテジーを活性化できるように、トピックのはじめから準備をしていきます。

新しい単元は、扉のページ、「きいていいましょう」を経て、「ききましょう」に入ります。扉では写真を見てトピックを導入し、Can-doを確認します。

「きいていいましょう」では、場面や基本的なことばを確認し、学習者の既有知識を活性化します。「ききましょう」を行うときも、場面や話者(どんな人か)、話者同士の関係性と、タスクや選択肢となっているイラストを確認してから、例題をいっしょにやってください。少なくとも2~3回、繰り返し聴くことで内容がわかってきます。

Q42.リスニングはテキストを見ながらでよいですか。聴解スクリプトはどのように使ったらよいでしょうか。

A.『まるごと』は、ことばの意味を全部理解してから聞く(話す)のではなく、聞きながら(話しながら)意味を予測、推測し、モニターし、定着させていくという習得の流れを想定して設計しています。

まず、聴解練習の前にトピックやだいじな語彙や場面を導入し、学習者の既有知識を活性化させておきます。

リスニングはスクリプト/テキストを見せないで聞かせてください。文字を見てから聞くのではなく、聞いてから見るようにすると、音声の聞き取りのモニターとしてより効果的です。「ききましょう」は一言一句聞き漏らさないような聞き方は要求しません。また、わからないことばがあったとしても、全体の理解に影響がなければ聞き逃してもあえて気にしない態度もだいじです。「理解できない部分を含むインプット」に、既有知識や文脈から推測しながら、耳だけで挑戦することが大事です。

音声を3回以上聞き、学習者が聞き取れていない部分の確認のためであれば、その部分だけスクリプト/テキストを見せても構いません。しかし、「ききましょう」でテキストを全部見せると、「はっけん」の活動ができなくなります。「はっけん」の活動は会話で必要な表現をきちんと聞きとるためにあります。「はっけん」のときには、必要な部分(正しく覚えてほしい部分)を文字で示しても構いません。

リスニングのときに、学習者から内容に質問があれば、まずは学習者に自分で推測してみるように言います。隣の人と話し合ってみてもよいでしょう。先生は最後に一緒に正解を確認してください。

Q43.音声ファイルには、「BGMあり」と「なし」がありますが、どのように使えばよいですか。

A.BGMがある音声を聴く場合、BGMは「ノイズ」でもあるので、学習者はノイズが流れる中で必要な情報をとり、また、全体を把握するという認知的負荷のかかる聴解タスクを行うことになります。

BGMあり(ノイズあり)で会話を何度も聞いた後にBGMなしを聞くと、日本語が細かいところまでとても鮮明に聞こえるので、注意してほしい表現を正確な音でとらえやすくなります。

BGMは場面の雰囲気や人物の心情を表現するだけでなく、学習者がリラックスして聞く上でもだいじなものです。ぜひ、BGMあり・なしの両方をご活用ください。

Q44.国内の学習者は、日本語を聞く機会が多いので、音声は利用しなくてもよいですか。
A.国内にいて、周りで日本語に触れる機会が多くある学習者でも、自分のレベルに合ったインプット(既有知識や推測しながら聞いて理解できる内容)が十分得られるとは限りません。国内で学んでいる学習者にも、ぜひ音声教材を活用してください。
Q45.独習では、学習者同士で会話の練習ができません。
A.本当のコミュニケーションではありませんが、ロールプレイのように自分ではない人物になって会話をすることも、練習になります。
まるごと+(まるごとプラス)」の会話練習もご利用ください。
Q46.<りかい>の「かいわとぶんぽう」の会話はどのように練習したらよいですか。
A.モデル会話をそのまま学習者同士で行います。質問の答えの部分を学習者が自分のことに変えて言うといいでしょう。その場合、ペアの相手を変えたり、グループでやると、互いのことがわかって楽しいコミュニケーションになります。
Q47.「ききましょう」に知らない単語や表現などがある場合、意味がわからないまま、シャドーイングをしてもよいでしょうか。
A.十分に準備をして「ききましょう」の音声を聞き、内容が理解できたか確認し、さらに「はっけん」で文法・文型の確認までやった後であれば、知らない単語や表現はほとんどないと思います。それでも先生として気になるのであれば、まず学習者に聞いてください。学習者自身の意思で確認したい部分があれば、その部分をできるだけ簡単に、文字も最小限に使うなどして教えてください。学習者から疑問がでなければ、シャドーイングをやってみましょう。
また、Can-doのモデル会話、「ペアではなしましょう」にも音声があります。「ききましょう」の会話を学習者がシャドーイングするのが難しそうであれば、こちらを使ってください。
Q48.シャドーイングは、スクリプト/テキストを見ながらでよいでしょうか。

A.シャドーイングは、発音、スピーキング、リスニングの向上に役立つと言われています。会話のスピードについて行くためには、文の少し先を予測しながら追いかけることが必要になりますので、シャドーイングは予測の練習になります。

文字を読みながら、は予測を妨げますので、できるだけ見なくても済むように工夫してください。線の種類や長さで談話の変化を示したり、スクリプト/テキストの全文ではなく、部分的に示したりすることもできます。

Q49.学習者の口が回らず、会話の練習ができないときはどうしたらよいでしょうか。

A.A1・A2レベルの学習者では「流ちょうに発音できなくても、なんとか伝えられるようになること」を優先させます。

会話の練習をする前に、発音を滑らかにするという目的でウォーミングアップをしたいときには、会話の音声を使って一文ごとに繰り返してみたり、シャドーイングをしてみてください。いろいろな人物の日本語で、練習にバリエーションをつけることができます。はじめは発音がおぼつかなくても、練習をしているうちに慣れてくるものです。焦らないことです。

会話の練習(「かつどう」の「ペアではなしましょう」)は、固定のペアで1回ずつではなく、クラスの5、6人と相手を変えて同じ会話をするようにします。自分の部分を同じにすると、5、6回話すうちに「口が回るように」なってきます。会話の練習の前にすでにある程度できるようになっている人は、会話で言うことを少しずつ変えてもいいと思います。

トピックで使わない語の活用練習や文型の代入練習、変換練習などのドリル練習は、Can-do会話との関連性がなく、行うべきではありません。

Q60.文法解説書はありますか。

A.文法解説書は作成していません。『まるごと』は日本語でのコミュニケーションを最終目的にしているため、文型練習もトピックや会話内容など特定の文脈の中で行います。学習者から文法に関する質問が出るようでしたら、各種教師用参考書等を利用して適宜補足されることをお勧めします。

ご参考までに、国際交流基金の海外拠点等がそれぞれのニーズに応じて独自に作成した文法解説書が、以下のウェブサイトで公開されています。

日本語・スペイン語:マドリード日本文化センター
ドイツ語:ケルン日本文化会館

Q61.『まるごと』では、文法を「まず学習者に考えさせる」のはなぜでしょうか。
A.第二言語習得理論では、私たちが言語を聞いて理解できるようになるために既有知識や文脈などを使って予測・推測することが大事だとされています。教室で学習者に未習の文法について考えさせるのは、この予測・推測のストラテジーを身につけて、自立した学習者になってもらうためです。
Q62.入門(A1)には「ルールをはっけんしましょう」という項目がありませんが、学習者に形式上のルールに気づかせるにはどうしたらよいでしょうか。

A.入門(A1)の主な表現は語彙レベルのものが中心になっているので、「はっけん」は特に設定していません。しかし、「ききましょう」の会話を聞きながら、主な表現に気づけたかどうか、また、ほかにどんなことばが聞こえたか/使われていたかを確認してから、次のペアワークに行くといいと思います。

初級1(A2)からは、聴解で学習者がルールに気づくような工夫が必要になります。「はっけん」で学習者にしてほしいことは、大きく分けて、
1.音声に含まれた形式に気づく
2.その形式が持つ意味や、活用等に規則性があればそれを推測し、確認する
ということです。まずは、1.の音声に含まれた形式に気づいてもらうことから始めてください。

● 形式に気づくために

「はっけん」では例文が文字化されていますが、まず音声から言語形式に気づかせるために、「ききましょう」の会話を全部聞いて質問の答えも確認したところで、学習者に大事な表現に気づいたかどうか聞いてください。それから、気をつけて聞く部分を意識して(項目がわかりやすい会話を選んで)、もう一度聞いて、「はっけん」への導入にしてもいいと思います。

気をつけて聞く部分を示すときには、スクリプト全文を示すのではなく、以下の例のように線や、ごく一部の語だけでも表すことができます。

A:日本は今、どんなきせつですか。
B:____________________
A:へえ、________
じゃあ、__________
B:だいたい__________
A:__________

● ルールを推測するために

語の活用方法など、形式上のルールは、例をよく観察することで何らかの気づきがあると思いますが、そのとき学習者自身がルールを頭の中で言語化してみることが大切です。母語で構いませんので、 例えば変化を表す表現(さむい→さむくなります)の場合なら、「~い」が「~く」になって「なります」と続ける、というように、自分なりにルールを言語化できるようにしてください。また、それをペアで言い合うことも有効です。最後は先生が正しいルールをごく簡単に伝えて確認します。

●意味を推測するために

言語形式の意味(文法的な意味・機能など)については、抽象的なレベルでの推測は可能ですが、扱う項目や、学習者によって、推測の程度は様々あります。さらに、この段階でできることは、あくまでも特定の文脈・場面における意味の推測です。

学習者に考えさせたあと、先生からも短く簡単なことばで確認してください。その際、先生は説明を複雑にしないことが大切です。なお、「かつどう」と「りかい」を併用する場合は、「りかい」で、さらに学ぶことができます。

会話から言語形式の意味を推測するには、文脈・場面が必要です。「ききましょう」の回答欄に答えが入った状態で利用して、会話の内容を思い出しながら、意味の推測を誘導することもできます。以下は、先生(T)と学習者(S)のやりとりのイメージです。

T:「ききましょう」1番をもう一度思い出しましょう。
今、どんなきせつですか。
S:ふゆ、です。
T:ふゆは、さむい?あたたかい?
S:さむいです。
T:そうですね。3月ごろは、どうなりますか。
S:あたたかいです。
T:(文字で示す)さむい → あたたかい
気温が 変わりますね。こういうのを、一言で言えますか。
S:
T:変化 Change
(文字で示す)あたたかくなります
なりますって、どういう意味ですか。
S:become(インターネット辞書ですぐ検索)
T:そうです。 X が 変化して Y になる、それが変化ですね。
S:なるほど!
Q63.入門(A1)では、終助詞「~ね」「~よ」が使われていますが、終助詞について説明しますか。
A.

終助詞「~ね」「~よ」は会話で多用されるため、入門(A1)から会話文に入っています。学習者から質問があれば、ごく簡単に説明しますが、積極的に説明する必要はありません。

ちなみに「~ね」は、初級1(A2)「かつどう」第4課で挨拶表現(いい天気ですね)を取り上げる際に明示的に提示していますが、ここでも説明はあくまでも最小限にとどめます。(「教え方のポイント」では、文末の「ね」は相手に共感を求める「ね」。相手が自分と同じ経験しているはずだという前提のもとに使われる、と説明しています。)

「~よ」は、初級2(A2)「りかい」第5課で表現文型の一部(「V-た/ないほうがいいです(よ)」)として扱い、文の印象を柔らかくすると、英文で説明しています。

Q70.「かつどう」では、漢字にルビがありますが、「りかい」ではルビがありません。なぜですか。
A.

「かつどう」は、漢字を読む(読めるようになる)ことは目標Can-doにしていないのでルビを振っています。

「りかい」では漢字が読めるようになることを学習目標としているので、「もじとことば」の「漢字を読みましょう」で提示した漢字のことばには、その後ルビを振っていません。

Q71.文字を学ぶにあたって、ひらがなとカタカナはどちらが先でしょうか。
A.

『まるごと』では、ひらがなとカタカナの間で「どちらが先」というふうには考えません。むしろ、音声と文字の間でどちらを先行させるかが問題です。先行するのはもちろん音声です。耳で聞いたことがあることば、聞いて知っていることばを文字(ひらがな、カタカナ、漢字)にして、文字の形を覚えていきます。文字学習は、語彙学習の一環としてあると言ってもいいと思います。

従来の文字学習では、「教えた=覚えた」と考えることが多いために、ひらがなとカタカナの「どちらが先が良いか」という議論になるのだと思います。しかし、「提示順=教える順=学習者が覚える順」ではありません。文字を覚えてから日本語学習に入るのではなく、日本語学習をしながら、ことばを通して文字も一緒に覚えていくのです。そのため『まるごと』では、入門(A1)の段階では、ローマ字が学習を助けています。

文字は学習の大きな助けになりますが、文字学習は学習者にとって大きな負担となります。一方で、文字ができないと高いレベルになれないということは必ずしもないと思います。どのような形で学習を進めるのが良いか、何がどこまで必要なのか、学習者の立場に立って一緒に考えてみてください。

Q72.日本語で話せるのに、ひらがな・カタカナが覚えられない方がいます。教え方で気を付ける点はありますか。
A.

文字学習の目的と重要性は、ことばや表現を文字という視覚情報を通して理解することにあります。したがって、聞いて知っていることばや表現を通して何度も繰り返し見ると、効果があります。

まず目標とする日本語能力と学習方法について、学習者とお話しいただき、文字学習の必要性があれば、それを確認してみてください。

Q73.学習者の能力を伸ばすためにはどのような働きかけをするのがよいでしょうか。
A.

学習者の努力する姿勢が感じられないと、焦ったり諦めたりしてしまいがちですが、教師は学習者に問いかけ、見守る(待つ)という姿勢を持ち続けることが大切です。教師にできることは、学習者が他者の考えを聞いたり、どうして自分はそう考えるのか、ふり返る時間をできる限り多く作ることです。

また、授業中は積極的に参加していないように見えても、ポートフォリオ等に記録している学習者もいます。授業中だけでなく、いつでも気づいたことを記しておける場所を作ることも大切です。

Q74.文化については、どのように教えればよいでしょうか。
A.

『まるごと』の考え方は、「ある事象や自己の行動のふり返りからその背景にある考え方や価値観について深めていく」というものです。

一方、考え方や価値観のような抽象的な話題について話すのは、Bレベル以上の日本語能力が必要です。入門(A1)~初級(A2)の場合は、事象は日本や日本語であっても、話し合ったり考えたりするのは、母語や学習者が自由に話せる媒介語がよいと思います。また、異文化理解の時間を取り入れるのは、授業のどの段階でも構いません。

E テストと評価

全てを表示

Q80.『まるごと』のクラス分けはどのようにしたらよいですか。
A.

学習者のクラス分けにあたっては、まず学習者へのアンケートやインタビューで日本語学習経験の有無や現時点での日本語レベルなどを聞いてみてください。

「まるごとサイト」のCan-doチェック(各国語版があります)などを使って、学習者の課題遂行能力(自己評価)を確認することもできます。

クラス分けのためのチェックポイント

入門(A1)初級1・2(A2)初中級(A2/B1)
日本語学習経験なしありあり
学習済の項目ごく基本的な項目だけ学習した/覚えている入門は学習した/ほぼ理解している初級は学習した/ほぼ理解している
その他ひらがな、カタカナがまだ読めない初級の学習経験はあるが、会話が苦手か、できない初級の仕上げ段階・中級に入る段階
学習者のJLPTレベル(目安)~N5N5~N4N4~N3

授業が始まった後でも、学習者にクラス(レベル)変更の希望があれば、柔軟に対応することをお勧めします。

※入門(A1)レベルではない、と判断されれば、「おすすめコース診断テスト」もご利用いただけます。
このテストは、日本語学習のためのプラットフォーム「JFにほんごeラーニング みなと」で開講されている「まるごと日本語オンラインコース」において、ユーザーがコース選択の参考とするための簡単なオンラインテストです。日本語、英語、スペイン語、インドネシア語の4言語から選んで受けられます。
テスト結果がA1の場合は入門、A2-1とA2-2の場合は初級1、A2-3とA2-4の場合は初級2、A2/B1の場合は初中級になります。

※学習者のレベルをJF日本語教育スタンダードにもとづいて大まかに把握する方法としては「JF日本語教育スタンダード準拠ロールプレイテスト」もあります。教育現場の教師ができるだけ簡単に実施できるよう開発されたものです。

Q81.学習者の到達度評価はどのようにすればよいですか。
A.

「かつどう」を使った授業の場合、評価の方法は筆記試験ではなく、パフォーマンス・テストになります。「かつどう」はやりとり(会話)のCan-doが主な学習目標になっているので、評価も会話のテストを行う必要があるのです。その際、ルーブリック(評価基準)を必ず使いましょう。ルーブリックは評価の観点と達成度を明記したもので、JFSのCan-do能力記述文を利用して作ることができます。詳しくは『JF日本語教育スタンダード【新版】利用者のためのガイドブック』をご参照ください。

 「りかい」の到達度評価は筆記試験でかまいません。
『まるごと』は学習の自己評価も重視しています。授業後にCan-doができたかどうか、言語項目がわかったかどうかを自分なりに評価するものです。これは学習者としての自律性を養うためにも大事なことだと思います。
なお、「かつどう」「りかい」各々の本冊には「テストとふりかえり」(テストの方法や問題例など)、本冊及び「まるごとサイト」には自己評価用の「Can-doチェック」「日本語チェック」が掲載されていますので、ご活用ください。

Q82.会話テストについて教えてください。
A.

会話テストの方法としては、インタビューやロールプレイなどの方法が一般的に知られています。また、会話テストのときにはルーブリック(評価基準)を使います。ルーブリックは評価の観点と達成度を明記したものですが、教師によって評価の結果にズレが生じることを避ける助けになるばかりでなく、学習者に対して役に立つフィードバックを与えるために有効です。ルーブリックはJFSのCan-do能力記述文を利用して作ることができます。詳しくは『JF日本語教育スタンダード【新版】利用者のためのガイドブック』をご参照ください。
『まるごと』「かつどう」の会話テストを実施する方法や問題例は本冊「テストとふり返り」に掲載されていますので、それをご覧ください。『まるごと』「かつどう」では、テストの待ち時間に学習者は教室でポートフォリオを見ながら話し合う活動をすることを提案しています。この方法では、テスト担当とポートフォリオ担当の2人の講師を配置します。1人の先生が会話テストをする一方で、もう一人の先生は学習者の話し合いを見守るとともに、テストを受けた学習者が他の学習者にロールカードの内容を伝えることを防ぎます。人員が足りない場合は、できる範囲で工夫して行えばよいと思います。例えばインタビュー、ロールプレイとも各3種類のタスクを用意し、受講者に対し、ランダムな組み合わせで出題するのも一案です。

※国際交流基金では「JF日本語教育スタンダード準拠ロールプレイテスト」も公開しています。教育現場の教師ができるだけ簡単に実施できるよう開発しており、学習者のレベルをJF日本語教育スタンダードにもとづいて大まかに把握することができます。

Q83.JLPT(日本語能力試験)のレベルと対応していますか。
A.

『まるごと』が準拠するJF日本語教育スタンダードは「日本語を使って何ができるか」という課題遂行能力をレベルの指標にしています。

一方、日本語能力試験(JLPT)は、課題遂行のための言語コミュニケーション能力を、言語知識(文字・語い・文法)、読解、聴解の3つの要素で測ります。

『まるごと』は課題遂行能力の育成を目標にする一方で、言語知識も十分カバーしてあり、新しい方法で効果的に学習しますので、『まるごと』の学習者がJLPTの相応のレベルに合格することは十分可能です。

一方、JLPT合格を目指す学習者には、問題形式に慣れるために、JLPT公式問題集などを使って、不足している部分を別途対策することをお勧めします。

JLPTの受験の目安は以下のとおりです。

『まるごと』JLPT
初級1(A2)終了N5
初中級(A2/B1)終了N4
中級2(B1)終了N3

様々な試験がありますが、いずれの試験も日本語学習の成果(の一部)を測る手段ではあるものの、日本語を学ぶ最終的な目的ではありません。日本語学習者にどんなことが求められているのか、試験と評価は社会的ニーズに即した観点から考える必要があります。

F オンライン授業

全てを表示

Q90.『まるごと』はオンライン授業で利用できますか?
A.利用できます。ただし、次の点にご留意ください。 ※オンライン授業だけでなく、対面授業にも適用されます。
  • 受講者を限定する方法で行い、受講者全員が『まるごと』を持っていること。
  • 『まるごと』本冊をカメラに映したり、『まるごと』を読み上げたり、音声ファイルを再生することはできる。ただし、画面キャプチャやスクリーン・ショット、さらには授業動画の録画等をしないよう、受講者に注意喚起すること。
  • 授業で使う資料の作成には、『まるごと』本文やイラストを「切り貼り」して使うことができる。ただし、『まるごと』の「ジョイさん」、「カーラさん」などのキャラクター名は変えることはできない。
  • 画像(写真)を使うことはできない。(二次利用の許諾が得られていない画像(写真)が含まれるため。)
  • 資料配付は、受講者のみが受領可能な方法で行う。さらに、配付資料のデータが再配布されないよう、データにパスワード・ロックを掛ける等、配慮すること。
  • 『まるごと』の内容を参考に、練習問題等を作成してもよい。
    ただし、『まるごと』に掲載されている画像(写真)を使うことはできない。
  • 録画について→次の質問と答えをご覧ください。
  • 音声ファイルについて→Q33Q34
Q91.『まるごと』を使った授業を録画してオンラインで生徒に見せることはできますか?
A.可能です。ただし、次の点にご留意ください。
  • 録画を閲覧可能であるのは、登録している受講者のみとし、ログインが必要等、本人確認の仕組みを持つシステムで公開する。
  • 授業を録画した動画を、電子メールやその他の電子的な手段によって受講者に送付することはできない。
  • 1週間を目安に録画データを削除する。
  • 画面キャプチャやスクリーン・ショット、さらには授業動画の録画を行わないよう、受講者に注意喚起を行う。
Q92.オンライン授業はどのように進めるのがよいでしょうか。
ウェブサイト「まるごと+(まるごとプラス)」で語彙、文法、漢字、会話、リスニング、日本の生活文化に関する様々な活動や情報を提供しています。ぜひご活用ください。

G JFスタンダード

全てを表示

Q100.「スタンダード」や「Can-do」とは何でしょうか。
A.「スタンダード」は、日本語教育を行っていくうえで私たちが指針とする大きな枠組みです。その指針を教育現場で実践するための道具の一つがCan-doです。例えば、「JF日本語教育スタンダード」は、行動中心で課題遂行型の授業や評価を実践するのに有効な道具としてCan-doを整備しています。Can-doは、CEFRやJFスタンダードの「全体的な尺度」や「自己評価表」にある一般的な能力記述だけでなく、具体的で多様な言語活動を記述しています。
Q101.JF日本語教育スタンダードのCレベルを目指すにはどうしたらよいでしょうか。
A.

Cレベルは「熟達した言語使用者」であり、学習者に必要なテーマや分野で、日常的なレベルを超えた、より高度な日本語運用が求められます。

そのため、いわゆる「教科書」ではなく、学習者のニーズに合わせて準備する教材が有効です。例えば企業内でCレベルの日本語を教える場合は、その企業内の様々な文脈において、Cレベルで具体的にどんな言語活動をするのかを把握し、そこから教材をつくるという作業が必要になります。

『まるごと』の学習方法(実生活での課題達成を目指す、自己評価する)でCレベルに近づいた学習者であれば、自分の日本語使用の中でレベルに合った課題を見つけることができるようになっているかもしれません。学習者が中心となって、グループで共通の課題を設定したり、個別の課題を設定する、教師はそれをサポートするという方法もあり得ます。

H その他

全てを表示

Q110.今後の出版予定はどうなっていますか。
A.書籍の『まるごと』の出版は中級2(B1)で最後となります。
Q111.学習者が「これができるようになりたい」と思う内容がテキストにない場合は、教師がその内容に沿った教材を作るのでしょうか。
A.

学習者のニーズが明確で、授業で教えてほしいというリクエストがある場合には、教材を教師が自作することも考えられます。

そのためには、「JF日本語教育スタンダード」などからレベルにあったCan-doをまず見つける/作成すること、学習素材(モデルテキストなど)を見つける/作ること、学習方法を考えることが必要です。

入手可能な教材を自分の授業用にアレンジして使うことも選択肢です。