「実際の日本をどううまく学習者に伝えるか工夫しています」
ヌケネワ・アライリム先生(カザフスタン:カザフスタン日本人材開発センター)
カザフスタンのアルマティにあるカザフスタン日本人材開発センターでは「入門」から「中級」の日本語コースが開講されています。
- 『まるごと』を使うようになって、変化したことはありますか。また、それはどのような変化ですか。学習者、ご自身、講座全体など、何でもかまいません。
『まるごと』を使うようになって、教え方が変わりました。『まるごと』を使うまでは、ほとんど文法に集中して教えていましたが、今は4つのスキル(特に話す、聞く)の向上を主に教えるようにしています。
例えば、各トピックの写真を見てもらって、「この写真は何の写真ですか、どこですか、誰がいますか、何をしていますか、これからどうしますか、どう思いますか、どうしてそう思いますか」などの質問をして、よく考えさせて、皆が意見を言うようにしています。そうすれば、私が質問する時は「聞く」練習になり、学習者が答える時は「話す」練習になります。
- 『まるごと』を教えていて、気を配っていることや難しいこと困ったことなどはありますか。また、それをどのようにして乗り越えましたか。
意識しているのは、実際の日本を学習者にうまく伝えることです。したがって、自分の日本での体験を授業でよく使います。例えば、「エコ活動」のトピックでは日本のゴミの分別方法を説明し、紙、水を無駄に使わないこと、食事、温泉、観光地、交通機関の使い方などについても話します。そうすると授業がずっと面白くなります。
難しいことは、発音を教えることです。その場合、教材の生の音声を聞かせて、その通りにリピートさせています。また、文法では、母語に訳さずに教えることが難しく、授業では、学習者に文型の意味を推測させるなどしています。
- 海外では日本語使用場面が少なくなりがちですが、教室の外へつなげる工夫などはされていますか。
カザフスタン日本人材開発センター(日本センター)のサイトには日本についてのサイトのリンクがあり、センターのSNS(Facebook,Instagram)にはいろんな情報を載せています。
また、日本企業の駐在員の方がビジターセッションに来てくれて、受講生と会話してくれる他、日本語弁論大会、カラオケ大会などの行事に参加してくれるので、受講生にとっては貴重です。日本語教育ではありませんが、日本企業が桜の木を地域に40本寄贈してくれたことがありました。
- 『まるごと』の柱の一つである「文化」について、どのように扱っていますか。また、文化講座ではどのようなことが体験できますか。学習者の反応はどうですか。
文化面では、毎回コース終了後に文化体験を行っています。折り紙や書道、また『まるごと』にでてくるお好み焼(おこのみやき)を実際につくる体験などもしています。 「エリンが挑戦!にほんごできます。」の映像や、日本の写真や映像も見せています。受講生はそのような体験を通して日本を感じて、楽しんでいます。
- 周囲の教育機関で、『まるごと』についての研修をしたり、教師と意見交換をしたりする機会はありますか。また、そのときの反応はどうですか。
『まるごと』の教え方やJFスタンダードについての教師研修、教師同士の意見交換を定期的にしています。カザフスタンには、国際交流基金の日本語の専門家が派遣されていて、その人たちとも協力して、アルマティ、ヌルスルタン(旧アスタナ)で実施しています。内容は新人教師研修、授業見学、模擬授業などです。
- その他、印象的なエピソードがあれば教えてください。
最初から『まるごと』で学習を始めた人は「ストレスがなく授業が楽しい」「日本人と困らずにコミュニケーションができるようになった」「会話練習のおかげで自由に話せるようになった」と言っています。一方、他の教科書で日本語学習を始めた人は、「文法の宿題がほしい」、「前回の授業で学んだテーマ、言葉、文法を復習したい」というようなリクエストをするなど文法と語彙に集中した勉強をしたがります。そういう人は自学自習をしてきていて、会話をする相手がいなかったことも関係があるのかも。
最初に体験した教科書の影響は大きいです。
もちろん、日本語を学ぶ目標によって教科書が違っていいと思います。例えば、JLPT受験のためには、文法・読解・語彙・聴解を重視した教科書が良く、コミュニケーションが目標なら、『まるごと』のような教科書がいいでしょう。
この記事は、2019年末に実施したインタビューをもとにしています。
※掲載にあたっては、カザフスタン日本人材開発センターの瀬川綾子氏のご協力を得ました。