「使いやすく、日本語能力だけでなくそれ以外の学びにも役立つ」
阿部公彦先生(台湾:明道中学校)
台湾の中学高校一貫校で第二外国語の日本語を教えています。
- 現在『まるごと』をお使いのクラスについて教えてください。
台湾にある明道中学国際部で中学3年生と高校1年生に週2時間または3時間の選択必修クラスを、またそれ以外にも中学1・2二年生を対象とした日本語クラブを担当しています。学生のレベルはA1からA2もしくはB1までで、学習目的は進学、興味、友達が選んだからなど、それぞれです。クラスの人数は多くても15人程度で、皆いっしょに楽しく学んでいます。
- どのような経緯で『まるごと』を使うことになったのですか。
きっかけは、クラス編成が大きく変わってレベルに差のある学生が混在するクラスがいくつもできてしまったことです。そこで、どうしたものかと途方に暮れているときに出会ったのが『まるごと』でした。最初はトピックを元に複数のレベルを縦断したクラス設計ができるのではないかと考えたのと、学生が自分で学習を進めやすい教科書の作りであること、また自律学習を支援するサービスが多いことも『まるごと』を選んだ決め手でした。
- 実際にはどのような授業を行っていますか。授業をする上で工夫していることや気をつけていることがあれば教えてください。
1年後、クラス編成がレベルによって分けられる形に戻ったのですが、その後しばらくは教科書の内容に沿って『まるごと』を使っていました。授業準備にそれほど時間をかけなくても、『かつどう』と『りかい』、それから「まるごと+」などにあるネット上のリソースを使えば、十分に授業はできますし、学生は伸びてきていましたから。ただ半年後ぐらいから、学生が学びに対して受け身になってきているのではと感じるようになってきました。
受け身になる、つまり学びたいから学ぶというのではなく教師か誰かが提示したものを淡々とこなしていくだけという態度では、学生時代は明確に成績がわかる筆記試験などがあり、それらをモチベーションにしていけるのでいいかもしれませんが、社会人になった後は学び続けていくことは難しくなるのではないかと私は考えています。実際に、台湾で学生時代は、日本語に限らず、成績や進学のために必死に勉学を積んだが、大学卒業後に目的を失ってしまい、学び続けたり、改めて学び始めたりすることができなくなってしまったという人を台湾でたくさん見てきました。それらのことから、私は学ぶ楽しみを忘れず将来自分一人でも学んでいける生涯学習者の育成ということも重視しています。そんな私にとって学生が学びに対して受け身になってしまうのは大きい問題でした。
色々考えた結果、その問題を解決するために、プロジェクトワークを『まるごと』のトピックに組み合わせるという方法をカリキュラムに組み入れることにしました。プロジェクトとゴールを設定した上で教科書を進めていき、最後にプロジェクトに取り組んでもらうという方法です。最近行った授業を例に説明します。
『まるごと 初級1(A2)』で「わたしのまち」に入るとき、はじめに「自分の住んでいる町」について先輩が作成したビデオや小冊子などを学生に見てもらいました。そして、そのトピックについて考えてもらったり、その作品に対する感想を聞いたりしました。作品に対しての感想だとか、自分の住んでいる町におもしろいものがあるなどの話が出たところで、「自分の住んでいる町」をテーマに学生たちと、どんなものをどんな形にしてアウトプットできるのか、してみたいか話し合いました。どんなプロジェクトになるか方向性が決まってから、教科書による授業を行い、その後学生たちはプロジェクトに取り掛かりました。その作品はオンラインで見ることができますので、もしよろしければご覧ください。
事前の話し合いでは、学生たちがやらされていると感じないように、彼らが興味を持つような内容やICTなどを組み合わせたものを提示して、いくつか例をあげながら、どんなことをしてみたいか、どんなことができるか学生たちと話し合います。話し合いながら、誰に見せるものなのか、ゴールは、そのプロジェクトをする目的は何なのかなどを決めていきます。その際にはできるだけ私が話しすぎないように、学生が自ら選び決めていくように注意しています。そして、それらのプロジェクトを現実の社会と結びつけることも意識させるようにしています。教科書を使って授業をするときには、その後のプロジェクトのことを忘れて授業を受けないように、表現や単語、他の関連することなどがプロジェクトに関連するんだよとほのめかしながら進めています。
- 学生の反応や学習効果はどうですか。
プロジェクトが、教室内だけということではなく学校外の人の目に触れる、つまり現実の社会とつながっていることで、自然に真剣度が上がり、練習などの効果も以前に比べて上がっていると思います。またこれらの準備は成績のためというより目標のためにということが態度に表れているのはいい傾向だと思っています。また、見てくださった方からの様々な反応は、学生らにとって非常に大きい励みとなるようで、もっと上達したいというモチベーションにもつながっているようです。
- これから『まるごと』を使って教える教師の方へ、メッセージをお願いします。
学習者の日本語によるコミュニケーション能力を上げていきたいという目的がはっきりしている場合ももちろん、『まるごと』は非常に使いやすく教師の負担も少ない上楽しいという素晴らしい教科書だと思います。それと同時に『まるごと』の利点はその柔軟性にあると考えます。中等教育などにおいて、日本語能力の向上だけではなく、それ以外の学びを進めるためのカリキュラムを組んだ際にも、取り込みやすいという利点があります。
もし、まだ使ったことがない方でしたら、試しに今使っている教科書の応用練習的に『まるごと』のサンプルを利用してみてはいかがでしょうか。学生といっしょにプロジェクターの画面に向かって音声ファイルを聞きながら、授業を進めてみてください。そして、「あ!!」とか「あれ?」や「ふふふ」などの声を拾ってあげながら、授業を進めてみてください。そして教科書の内容が終わったら、皆さんが住んでいる地域の地図を広げて(Googleマップでもいいでしょう)皆で話し合ってもらうのです。学生たちは話したいことがたくさんあります。そして先生である皆さんに伝えたいことがたくさんあります。それを引き出すきっかけになる教科書が『まるごと』という教科書なのです。
この記事は、2019年末に実施したインタビューをもとにしています。