「受講生が自分で考えて学習するように工夫しています」
タイン・ヒエン先生(ベトナム日本文化交流センター)
国際交流基金海外拠点のベトナム日本文化交流センターの日本語講座で教えています。これまで主に「 入門」「初級1」「中級2」を担当。
- 『まるごと』を使うようになって、変化したことはありますか。
いろいろ変化したことがあると思います。まず、以前は文法中心に授業を進めていましたが、『まるごと』を使うようになってからは、いろいろな場面で日本語を使って対応できる能力を中心に、授業を設計するようになりました。
そもそも『まるごと』では、多くの身近なトピックが揃っていて、課ごとに目標(Can-do)もはっきり設定されています。そして、それらのCan-doを達成するために、コミュニケーション力を向上させる練習や活動などもいろいろ取り入れられているので、利用しやすいと思います。
また、それらの内容を参考にして、他の活動も考え出すことができると思います。例えば、『まるごと』入門トピック11のCan-do29は、「休みの日に何をするか話します」ですが、このCan-doを応用して、休みの日にしていることを話しながら、「あなたと同じ趣味をもっている人を探しましょう」という活動にチャレンジしてみました。普段は口数の少ない受講生も積極的にクラスメートと日本語で楽しそうに話していました。やり方を少し変えるだけで、受講生からいい反応を引き出せることが実感できて、嬉しく思っています。
さらに受講生の変化も見られました。受講生にとっては実用的な日本語を学ぶことができるし、実践的な聴解や会話練習を繰り返しできるので、自信をもって日本語が使えるようになっているようです。受講生の発話力も改善されたと感じていますし、受講生が授業に積極的に参加するようになり、授業の雰囲気も良くなりました。日本語をもっともっと話したいという受講生が増えています。
- 『まるごと』を使うにあたり、困ったことや大変だったことはありますか。
当初、『まるごと』は、私にとっては新しい考え方に基づいた新しい教授法を採用していて、それらを理解し、『まるごと』の理念に沿った授業ができるようになるまで戸惑うことが多かったです。自分が慣れているやり方を改善したり変えたりすることを覚悟しなければならなりませんでした。教師が一方的に教えたり、知識を伝えたりするのではなく、学習者が自分自身で主体的に学習するように促すことを意識することが重要だと考え、グループワークやペアワークなどの活動を通して、できるだけ受講生が自分で考えたり推測したりすることを促すようにしています。そして、受講生に「授業を作る」役割を持たせるようにしています。
それから、困ったというほどではありませんが、『まるごと』のきれいな写真やイラストをどうやったら効果的に使えるか、いつも考えています。どの写真・イラストも情報を持っていて、場面の確認や練習の仕方を工夫するときに役に立つ素材です。ですから、教科書を分析するときに、まず、それらのイラストがどんなメッセージや意図があるのか、どんな情報を持っていて、自分自身がどれぐらいその情報や要点を掴めているか(例えば、会話の場面、登場人物の関係や仕事、態度など)を深く考えて、それから、その要点をどのように受講生に気付いてもらうかなどを考えています。同僚と相談することもあります。そして、受講生に気付かせるためのヒントの質問を考えておき、授業のとき、受講生に考えさせたり、意見を言わせたりしています。
- 『まるごと』の柱の一つである「文化」について、どのように扱っていますか。
『まるごと』には日本の文化に関する内容やイラスト・写真がたくさん取り入れられています。教師として、これらの文化について、必ず知っておかないといけないのではないかとよく心配になります。それで、授業の準備をしているとき、それらの内容に関して自分自身がどんな疑問を抱えているのか明確にして、自分で調べたり、同僚や日本人などに聞いてみたりしています。授業では、自分が調べたことをすぐに説明せず、まずは受講生自身に考えてもらい、受講生同士で意見交換するようにしています。そういう活動のおかげで、受講生が自分の意見も言えるし、他の受講生の意見も聞けるし、もっと自分の関心を深めたり、好奇心を広げたりすることができると思います。受講生はネットで情報を調べたり自分の体験をシェアしたり、積極的に参加してくれています。実は、私も受講生の意見を聞いて、いろいろなことを知り、勉強になったなあと思うことが多いです。
その他に、ベトナムでは「桜祭り」や「お正月祭り」、「雪の祭り」などの外部の日本文化関係のイベントや、「映画祭」、「折り紙の展覧会」などの国際交流基金のイベント、当センターの文化体験講座もたくさん行われています。こういうイベントの情報を受講生に伝え、参加するように促しています。その後、体験したことについて文化体験シートに書いてもらい、「振り返り」の授業でクラスの全員にシェアしてもらっています。
- 印象的なエピソードをお願いします。
「振り返り」の授業では、文化について受講生自身が考えたり調べたりしたことをクラスの中でシェアしたり、意見交換したりするのですが、いつも受講生に驚かされています。ある入門クラスでは、「日本はベトナムと違って左側通行である」ことを調べてきた受講生が、「でも、それはどうして?」と疑問を投げかけました。すると他の受講生が「昔、侍が刀を左の腰に差していたことと関係があると聞いたことがありますが、本当かどうかわかりません」と自分の知識をシェアしてくれました。さまざまな意見が出た後、結局、各自が自主的に日本の左側通行の理由を調べることになりました。このように、受講生たちが自分自身で調べたり、積極的に意見交換に参加したりしてくれる姿を見ると感動してしまいます。
この記事は、2019年末に実施したインタビューをもとにしています。